肥大型心筋症

執筆者:Tisha Suboc, MD, Rush University
レビュー/改訂 2022年 11月
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肥大型心筋症とは、心室(心臓の下側にある2つの部屋)の壁が厚くなって(肥大)硬くなる一群の心疾患です。

  • ほとんどの肥大型心筋症は、親から受け継がれた遺伝的な異常によって引き起こされます。

  • 失神、胸痛、息切れ、動悸(不規則な心臓の拍動が自覚されること)が生じます。

  • 医師は身体所見からこの病気を疑いますが、診断の確定には心エコー検査またはMRI検査が用いられます。

  • 心臓の収縮力を低下させる薬を投与します。

心筋症とは、心臓の壁を構成する筋肉の構造と機能が障害される進行性の病気です。心筋症には主に3つの病型があります。肥大型心筋症に加えて、拡張型心筋症拘束型心筋症です(心筋症の概要も参照)。

心筋症という用語は、ある病気が心筋に直接影響を及ぼしている場合に使用されます。高血圧や心臓弁弁膜症(大動脈弁狭窄症など)といったのその他の病気でも、最終的に心室の肥大と心不全が起きることがあります。

肥大型心筋症は、若い運動選手でみられる突然死の一般的な原因です。少なくとも500人に1人の割合で発生すると考えられています。

肥大型心筋症の原因

肥大型心筋症は、そのほぼすべてが遺伝的な異常によって引き起こされます。それらの異常は以下の場合があります。

  • 自然に発生した遺伝子変異

  • 遺伝により受け継がれた遺伝子異常

ごくまれに、先端巨大症(通常は下垂体の良性腫瘍によって成長ホルモンが過剰に分泌されて起きる病気)、褐色細胞腫アドレナリンというホルモンを過剰に分泌する腫瘍)、神経線維腫症(軟らかい肉質の神経組織が皮膚の下やその他の部位で多数増殖する遺伝性疾患)などの病気によって、後天性の肥大型心筋症が発生する場合もあります。

合併症

肥厚して硬くなっているために心室の壁が十分に弛緩できず、そのため心腔に十分な量の血液が流れ込まなくなります。心臓が速く拍動する際(運動中など)には、心腔に血液が流れ込む時間がさらに短くなるため、この問題はより重大になります。心臓に血液が十分に流れ込まないことから、毎回の拍動で全身に送り出される血液の量が減少します。ときに、厚くなった心臓の壁によって心臓から流れ出る血流も妨げられます。この状態は閉塞性肥大型心筋症と呼ばれます。

心室の壁が厚くなると、僧帽弁(左心房から左心室に向かって開く心臓弁)が正常に閉じなくなり、左心房に血液が逆流することがあります(僧帽弁逆流症)。この弁での逆流と心室の拡大により、典型的には異常な心音(心雑音)が発生します。

不整脈が発生する可能性があり、それにより突然死に至るおそれがあります。

肥大型心筋症の症状

症状は非常に多彩ですが、通常は20~40歳で発症します。症状はまず運動時にみられるようになり、具体的には以下のものがあります。

  • 失神

  • 胸痛

  • 息切れ

  • 動悸(不規則な心拍の自覚)

失神は通常、警戒すべき症状を伴わずに突然起こります。この病気では、失神やさらには突然死が最初の徴候になることすらあります。

肥大型心筋症の診断

  • 心エコー検査や心臓のMRI検査

肥大型心筋症は通常、症状と身体診察、心電図検査、胸部X線検査の結果から疑われます。聴診器で聴こえる心音および心雑音が診断に役立つことがあります。心電図検査と心エコー検査は、若い競技選手の全員に推奨されるわけではありませんが、そのような運動選手は全員、精密検査の必要性を示唆する危険因子がないか調べるための評価を受けるべきです。

心エコー検査は、診断を確定する上で最良の方法ですが、より詳細な情報が得られることから、心臓のMRI検査も併せて行われることがあります。

心臓カテーテル検査は、カテーテルを腕、首、または脚の血管から心臓の中まで挿入して行われる、体に大きな負担をかける検査で、心臓の中で血圧を測定することにより、壁が厚くなったせいで左心室から出ていく血流がどの程度遮られているかを明らかにする目的で、しばしば行われます。

肥大型心筋症は通常は遺伝子変異が原因であるため、この病気をもっている近親者を特定するために、遺伝子検査が行われることもあります。

肥大型心筋症の予後(経過の見通し)

肥大型心筋症の成人患者は1年間に約1%が死亡します。肥大型心筋症の小児患者は、死亡する可能性が成人より高くなっています。

死亡のリスクがより高いことを示唆するその他の要因として、以下のものがあります。

  • 突然死(特に若年での突然死)の家族歴

  • 原因不明の失神、心停止、または心室頻拍

  • 速く異常な心拍リズムの出現

  • 心筋の重度の肥厚

  • 心臓が十分な量の血液を送り出せない

  • 特徴的なMRI所見

死亡は突然みられるのが通常で、死因は不整脈と推定されます。慢性心不全による死亡はあまりみられません。

この病気は50%の確率で子どもに遺伝することから、この病気を遺伝により受け継いでいることが判明した人は、家族計画を立てる際に遺伝カウンセリングを受けることが望ましいでしょう。この遺伝性疾患をもつ人の第1度近親者(兄弟姉妹または子)は、心臓の評価を(遺伝子検査や定期的な心エコー検査で)受けるようにしてください。

肥大型心筋症の治療

  • ベータ遮断薬やカルシウム拮抗薬などの薬

  • ときに、血流を改善するための処置

  • ときに、植込み型除細動器

可能であれば、肥大型心筋症の原因になっている病態に対する治療を行います。

肥大型心筋症の治療では、心臓の拍動と拍動の間に心臓に血液が流れ込む際の抵抗を軽減することが主な目的となります。

肥大型心筋症の治療薬

主な治療法は、ベータ遮断薬とベラパミルというカルシウム拮抗薬を単独または併用で投与することです。どちらも心筋の収縮力を低下させます。その結果、心臓により多くの血液が流れ込むようになるとともに、厚くなった心筋によって血流が遮断されていた場合には、心臓から血液が流出しやすくなります。また、ベータ遮断薬とベラパミルは心拍を遅くするため、心臓に血液が流れ込む時間が長くなります。心臓の収縮力を弱めるジソピラミドという薬を使用する場合もあります。

ときに、不整脈を治療するためにアミオダロンが使用されます。

マバカンテン(mavacamten)は、症状を緩和し、運動耐容能を高めるとみられています。

心筋切除術

厚くなった心筋の一部を切除する手術(心筋切除術)によって心臓から出る血流を改善できますが、この手術は薬物療法で症状が改善しなかった場合にのみ行われます。心筋切除術によって症状は軽減する可能性がありますが、死亡のリスクは低下しません。心筋切除術の実施経験が豊富な病院で行われた場合、長期的にみて非常に良好な結果が得られます。

アルコールアブレーション

特定の人には、心臓から出る血流を改善するためにアルコールアブレーション(アルコールを注射することで心筋の一部分を限定的に破壊する処置)が行われることがあり、心臓カテーテル検査中に行うことができるため、実施されるケースが増えてきています。心臓カテーテル検査は心臓内にカテーテルを通して行う検査法で、体に負担がかかりますが、心臓手術で合併症を起こすリスクが高い人に適用すると、そのリスクを低下させることができます。

植込み型除細動器

重度の心筋肥厚、特に心腔を隔てる壁(中隔)に肥厚がみられる人は、突然死を引き起こす致死的な不整脈のリスクが高くなっています。そのような人には、植込み型除細動器の使用が勧められることがあります。

さらなる情報

以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 米国心臓協会:肥大型心筋症(American Heart Association: Hypertrophic cardiomyopathy):肥大型心筋症の症状、診断、および治療に関する包括的な情報を提供している。

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