毛髪の成長には周期があります(毛髪の成長の概要 毛髪の成長の概要 毛髪(頭髪と体毛)は毛包から生えてきます。毛包は、表皮と皮下脂肪層(皮下組織とも呼ばれます)の間にある真皮層の中にあります。毛包はほぼすべての部位の皮膚にみられますが、唇、手のひら、足の裏には存在しません。新しい毛髪は、毛包の底部にある毛母(毛母基)という場所で作られます。毛母の中の生きた細胞が増殖して、上に押し上げられていきます。それら... さらに読む も参照)。各周期は次の段階から構成されます。
長い成長段階(成長期):持続期間は2~6年間
短い移行段階(退行期):持続期間は3週間
短い休止段階(休止期):持続期間は2~3カ月間
休止期の終わりになると、その毛髪は抜け落ち(脱毛期)、新しい毛髪が毛包の中で成長を始めて新たな周期が始まります。正常であれば、毎日50~100本程度の頭髪が休止期の終わりを迎え、頭皮から抜け落ちていきます。
脱毛に至る毛周期の病気としては、以下のものがあります。
成長期脱毛:毛髪の成長期の乱れによって成長期毛が失われる
休止期脱毛:1日当たり100本以上の多くの毛髪が休止期に入り、その後抜け落ちる
ときに脱毛は、限局性(頭皮の一部分に限定している場合)とびまん性(広い範囲に生じている場合)に分類されます。脱毛は瘢痕化がみられるかどうかでも分類されます。
脱毛症の原因
脱毛で最も一般的な原因は以下のものです。
脱毛のその他の一般的な原因には以下のものがあります。
薬剤:特に化学療法薬
身体的ストレス:高熱、手術、大きな病気、突然の体重減少、妊娠(いずれも休止期脱毛を生じることがある)など
精神的ストレス
けが(外傷)
毛包の損傷の原因には以下のように多くのものがあります。
牽引性脱毛症(三つ編み、ヘアカーラーの使用、ポニーテールなどで髪の毛に常に引っぱる力がかかることで生じる脱毛)
熱傷と放射線
圧迫性脱毛症(例えば、頭皮への長時間の圧迫により毛包に損傷を与えるような手術の後など)
中心部から周囲に広がる瘢痕性脱毛症(central centrifugal cicatricial alopecia) 中心部から周囲に広がる瘢痕性脱毛症 脱毛は、脱毛症とも呼ばれ、体のあらゆる部位に生じます。頭皮に起きる脱毛は禿頭(とくとう)と呼ばれます。脱毛は美容上の理由でしばしば大きな問題となりますが、全身の病気(全身性疾患)の徴候である可能性もあります。 毛髪の成長には周期があります( 毛髪の成長の概要も参照)。各周期は次の段階から構成されます。 長い成長段階(成長期):持続期間は2~6年間 短い移行段階(退行期):持続期間は3週間... さらに読む は、頭頂部の頭皮から始まる瘢痕化を伴う脱毛を引き起こします。原因には複数の要因が関係しています。
あまり一般的でない原因としては、一次性の毛幹異常(毛幹に起因する異常)、毛孔性扁平苔癬(頭皮の扁平苔癬)、前頭部線維性脱毛症(frontal fibrosing alopecia)、まれな皮膚の病気などがあります。
アンドロゲン性脱毛症
このタイプの脱毛症は年齢とともに増加し、80歳以上では男性の70%以上(男性型脱毛症)、女性の57%以上(女性型脱毛症)に起こります。遺伝とともに、ジヒドロテストステロンというホルモンが大きく関与しています。脱毛は思春期中またはその後のどの年代でも発症する可能性があり、青年期のうちに生じる例もあります(図「 頭髪の抜け方 かみの毛のぬけ方 」を参照)。アンドロゲン性脱毛症は、アジア系の人や黒人よりも白人で多くみられます。
男性では、脱毛は側頭部または頭頂部から始まって、後頭部に進んでいくのが通常です。男性によっては脱毛が部分的なものにとどまり、生え際が後退したり、小さな脱毛部分が後頭部にできたりするだけの場合もあります。しかし他の男性、特に若いうちから脱毛が始まる場合では、頭頂部の毛髪がすべて失われ、側頭部や後方に残るだけになることもあります。このようなパターンは男性型脱毛症と呼ばれます。
女性では、脱毛は頭頂部から始まりますが、完全に毛が抜けるのではなく、薄くなるのが通常です。一般的に、生え際は変化しません。このようなパターンは女性型脱毛症と呼ばれます。
かみの毛のぬけ方
男性ではふつう、脱毛はこめかみか頭のてっぺんから始まって、後ろの方に進んでいきます。このパターンを男性型脱毛症といいます。 女性ではふつう、脱毛は頭のてっぺんから始まります。たいていは、毛が完全になくなるのではなく、うすくなるだけで、生えぎわの位置は変わりません。このパターンを女性型脱毛症といいます。 |
円形脱毛症
円形脱毛症 円形脱毛症 円形脱毛症は、皮膚の病気や全身の病気(全身性疾患)などの明らかな原因もなく、毛髪が斑状に突然抜ける病気です。 ( 毛髪の成長の概要と 脱毛[脱毛症]も参照のこと。) 円形脱毛症はよくみられます。性別や年齢を問わず起こりますが、小児や若い成人に特に多くみられます。 円形脱毛症の原因は 自己免疫反応、つまり免疫による防御機構が誤って毛包を攻撃するためと考えられています。円形脱毛症は他の病気が原因で起こるものではありませんが、患者の中には甲状... さらに読む では、典型的には不規則な丸い斑状の脱毛が突然起こります。より広い範囲で頭髪や体毛の脱落が起きることもあります。この病気は、免疫機能に異常が生じて、その人の組織を攻撃してしまうこと(自己免疫反応と呼ばれます)で生じると考えられています。
中心部から周囲に広がる瘢痕性脱毛症
中心部から周囲に広がる瘢痕性脱毛症(central centrifugal cicatricial alopecia)は、黒人女性の瘢痕性脱毛症の原因として最も多くみられるものです。ホットコーム、ストレートパーマ剤、ヘアピースなどが原因の可能性がある頭皮の損傷が、遺伝的素因である毛包の異常による毛包の損傷と組み合わさることで、頭頂部と後頭部の頭皮における進行性の脱毛と瘢痕化につながります。
皮膚エリテマトーデス
皮膚エリテマトーデスでは、有毛部位の皮膚から毛髪が抜けることがあります。毛包が完全に破壊されてしまうと、脱毛が永久化することがあります。皮膚エリテマトーデスは、体内で作られる抗体または細胞が自身の組織を攻撃する病気(自己免疫疾患と呼ばれます)である 全身性エリテマトーデス 全身性エリテマトーデス(SLE) 全身性エリテマトーデスは、関節、腎臓、皮膚、粘膜、血管の壁に起こる慢性かつ 炎症性の自己免疫結合組織疾患です。 関節、神経系、血液、皮膚、腎臓、消化管、肺、その他の組織や臓器に問題が発生します。 診断を下すため、血液検査のほか、ときにその他の検査を行います。 全身性エリテマトーデスの全患者でヒドロキシクロロキンが必要であり、損傷を引き起こし続けている全身性エリテマトーデス(活動性の全身性エリテマトーデス)の患者には、コルチコステロイドな... さらに読む (SLE)の人で生じることがありますが、そうではない人にもみられます。全身性エリテマトーデスは、全身の様々な臓器に影響を及ぼし、瘢痕を残さない広範囲の脱毛を引き起こすことがあります。皮膚エリテマトーデスでは、毛髪が斑状に抜ける傾向があり、瘢痕化を伴う脱毛や永久的な脱毛が生じることがあります。
ホルモンの不均衡
女性で男性ホルモンの量が過剰になる場合や、男性ホルモンの影響を(例えば遺伝的に)受けやすい場合は、頭髪が抜けたり、 にきび にきび(ざ瘡) にきび(ざ瘡)は、顔面や上半身の体幹部に吹き出物などの異常が生じる、ありふれた皮膚の病気です。 にきびは、死んだ皮膚細胞の堆積物や細菌、乾燥した皮脂などが皮膚の毛包をふさぐことによって生じます。 多くの場合、顔面、胸、肩、背中の皮膚に、黒色面皰(めんぽう)、白色面皰、吹き出物、嚢腫(のうしゅ)などの隆起が現れ、ときに膿瘍も生じます。... さらに読む ができたり、顔面や体幹といった男性でより典型的な部位の毛髪が濃くなったり(男性型多毛症 多毛 男性では、体毛の量は人によって大きく異なりますが( 毛髪の成長の概要も参照)、医療機関を受診するほど体毛の多さに悩んでいる人はごくわずかです。女性では、過剰とされる体毛の量は民族的背景や文化によって様々です。通常、過剰な体毛は美容的、精神的に問題となるだけです。しかし、ときにその原因が重篤な内分泌疾患である場合もあり、特に男性的な特徴(男性化)がみられた女性では、そうである可能性が高いです。... さらに読む )する可能性があります。女性におけるアンドロゲン過剰の最も一般的な原因は 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS) 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS) 多嚢胞性卵巣症候群は軽度の肥満、月経不順または月経がないこと、男性ホルモン(アンドロゲン)の濃度が高いことにより引き起こされる症状を特徴とします。月経周期が乱れ、男性ホルモン(アンドロゲン)の濃度が高くなる傾向がみられます。 典型的には、患者は肥満で、にきびができたり、声が低くなる、乳房が小さくなる、体毛が過度に増えるといった男性的な特徴がみられます。 多くの場合、症状に基づいて診断を行いますが、血液検査でホルモンを測定したり、超音波検... さらに読む です。多嚢胞性卵巣症候群の女性では通常、顔や体に過剰な毛髪がみられ、頭髪の脱毛(女性型脱毛症)がみられることもあります。アンドロゲンの血中濃度が大幅に上昇すると、頭髪の脱毛だけでなく、声の低音化、乳房の縮小、筋肉量の増加、月経不順、陰核(陰茎に対応する女性の小さな器官)の肥大、性欲の増強などのさらなる徴候・症状がみられるようになりますが、このような変化を男性化といいます。まれに、卵巣または副腎腫瘍から男性ホルモンが分泌されて、男性化が生じることがあります。運動能力を高めるために タンパク質同化ステロイド タンパク質同化ステロイド タンパク質同化ステロイドは、合成(人工)型のテストステロンで、筋肉量を増やすために使用されます。 タンパク質同化ステロイドは、筋肉の成長を促し、筋力と活力を増強するホルモンです。 タンパク質同化ステロイドには多くの副作用もあり、精神的なもの(気分変動、攻撃的行動、易刺激性)や、身体的なもの(にきび、女性の男性化、男性の乳房腫大)が含まれます。 これらの物質は6カ月後まで尿中で検出できます。... さらに読む を服用している女性や、副腎に影響を及ぼす遺伝性疾患(先天性副腎過形成症 先天性副腎過形成症 性器の先天異常は、男児では陰茎、陰嚢、精巣、女児では腟と陰唇に生じます。ときとして、性器が女性のものか男性のものかがはっきりしない性別不明性器であることがあります。 性器の異常の原因としては、胎児の発育中に性ホルモンの濃度が異常であったこと、染色体の異常、環境的な要因、遺伝的な要因があります。 外性器が男性か女性かはっきりしない場合があり(性別不明性器)、このような状態は先天性副腎過形成症の女児で最もよくみられます。... さらに読む )がある女性にも、男性化が生じることがあります。
薬剤
タンパク質同化ステロイドを使用していると、男性型または女性型脱毛症が生じることがあります。化学療法薬は一般的に毛髪の成長期を乱すため、成長期毛の喪失を引き起こします(成長期脱毛)。休止期脱毛を誘発することにより脱毛をよく引き起こす処方薬もあります(例えば、抗凝固薬や高血圧、にきび、甲状腺疾患、けいれん発作の治療薬)。
栄養障害
それほど多くありませんが、栄養障害も脱毛の原因になります。症状は栄養障害の種類によって様々です。
身体的ストレス
高熱、手術、大きな病気、体重減少、妊娠などのストレスによって、休止期に入る毛髪の本数が増加することがあります(休止期脱毛につながります)。一般的には、ストレスが生じてから数カ月後に毛髪が抜けます。この種の脱毛は多くの場合、永久的なものではありません。
精神的ストレス
この種のストレスにより、正常な毛をねじったり、いじったり、引き抜いたりする習慣が生じることがあります(抜毛症 抜毛症(抜毛癖) 抜毛症では、繰り返し毛髪を引き抜き、結果として脱毛が生じます。 抜毛症の人は、毛を抜く直前に緊張感や不安を抱いていて、毛を抜くことで、そうした感情が和らぐことがあります。 一般的に症状の重症度は変動しますが、症状が生涯続く場合もあります。 毛髪が少なくなるほど毛を抜いていて、毛を抜く行為をやめようとしてもやめられず、そのために強い苦痛を感じているか、日常生活に支障をきたしている場合に、この病気の診断が下されます。... さらに読む )。大半は小児ですが、成人でも起こります。抜毛行為はなかなか周囲に気づかれにくく、抜け毛の原因を誤って 円形脱毛症 円形脱毛症 円形脱毛症は、皮膚の病気や全身の病気(全身性疾患)などの明らかな原因もなく、毛髪が斑状に突然抜ける病気です。 ( 毛髪の成長の概要と 脱毛[脱毛症]も参照のこと。) 円形脱毛症はよくみられます。性別や年齢を問わず起こりますが、小児や若い成人に特に多くみられます。 円形脱毛症の原因は 自己免疫反応、つまり免疫による防御機構が誤って毛包を攻撃するためと考えられています。円形脱毛症は他の病気が原因で起こるものではありませんが、患者の中には甲状... さらに読む や真菌感染症などの病気だと考えている医師や両親を困惑させることもあります。重い精神的ストレスが長引くことによっても、毛髪が自然に抜けることがあります(休止期脱毛)。しかし、このような脱毛には、日常生活におけるありふれたストレスではなく、大きな慢性的ストレスが関わっています。
頭部白癬(しらくも)
頭部白癬(しらくも) しらくも(頭部白癬) 頭部白癬(しらくも)は、頭皮の皮膚糸状菌(真菌)感染症です。 頭部白癬の症状としては、頭皮に乾燥したうろこ状の斑、斑状の脱毛、またはその両方が生じます。 診断は、頭皮の診察と頭皮から採取したサンプルの検査の結果に基づいて下されます。 治療は、すべての患者で抗真菌薬の内服を行い、小児に対しては抗真菌薬クリームを使用します。 ( 皮膚真菌感染症の概要も参照のこと。) さらに読む は、小児で斑状の脱毛の原因としてよくみられる真菌感染症です。この感染症は、鱗屑(うろこ状のくず)を伴う斑として始まり、それが徐々に大きくなります。やがて毛髪が折れて通常は頭皮の表面と一体化し、黒い点のように見えることがあります。毛髪が頭皮表面より上方で折れて短い毛の切れ端が残ることもあります。脱毛が永久的なものになる場合もあり、感染症が治療されないままだと特にその可能性が高くなります。
牽引性脱毛症
この病気は、堅い三つ編みにしたり、ヘアカーラーを巻いたり、ポニーテールにしたりすることで毛髪に常に引っぱる力がかかることで生じる脱毛です。前頭部や側頭部の生え際に最もよく生じます。
脱毛症の評価
以下では、どのようなときに医師の診察を受ける必要があるかと、診察を受けた場合に何が行われるかについて説明しています。
警戒すべき徴候
以下がみられる場合は、特に注意が必要です。
全身の病気の徴候
女性では、声が低くなる、男性に典型的な部位の毛髪の成長(男性型多毛症 多毛 男性では、体毛の量は人によって大きく異なりますが( 毛髪の成長の概要も参照)、医療機関を受診するほど体毛の多さに悩んでいる人はごくわずかです。女性では、過剰とされる体毛の量は民族的背景や文化によって様々です。通常、過剰な体毛は美容的、精神的に問題となるだけです。しかし、ときにその原因が重篤な内分泌疾患である場合もあり、特に男性的な特徴(男性化)がみられた女性では、そうである可能性が高いです。... さらに読む )、月経不順、にきび、乳房の萎縮、筋肉量の増加、陰核の肥大、性欲の増強など、男性的な特徴の出現(男性化)
受診のタイミング
脱毛と全身の病気の徴候がみられる場合は、速やかに医師の診察を受ける必要があります。男性的な特徴が現れた女性では、主治医に電話をして、どれくらい速やかに受診すべきか話し合ってください。そうでない場合は、可能なときに医療機関を受診するべきですが、他の症状が現れない限り、受診の予約を急いで取る必要はありません。
医師が行うこと
医師はまず、症状と病歴について質問し、次に身体診察を行います。病歴聴取と身体診察で得られた情報から、多くの場合、脱毛の原因と必要になる検査を推測することができます。
医師は脱毛について以下の質問を行います。
脱毛は徐々に始まったか、突然始まったか
脱毛はどのくらい続いているか
脱毛は増えているか
脱毛は頭部全体に生じているか、あるいは特定の部位に生じているか
かゆみや鱗屑(うろこ状のくず)などの他の症状に注意します。ヘアケアについて、三つ編み、ヘアカーラー、ヘアドライヤーを使っているかどうか、毛を日常的に引っぱったり、ねじったりしているかを尋ねます。
また最近、薬、有害物質、放射線にさらされたことがないか、重度のストレス(手術、慢性疾患、発熱、精神的ストレスによるものなど)を経験していないかも尋ねます。劇的な体重減少、食事習慣(様々な食事制限を含む)、 強迫的な行動 強迫症 強迫症は、強迫観念、強迫行為、またはその両方が認められることを特徴とします。強迫観念とは、不安を呼び起こす好ましくない考え、イメージ、衝動が頭の中に繰り返し割り込んでくることをいいます。強迫行為(儀式とも呼ばれます)とは、強迫観念により生じる不安を和らげたり抑止したりするために繰り返し行わなければならないと患者が感じる、特定の行動や精神的な行為です。 強迫的な思考や行動のほとんどは、害やリスクに対する懸念に関連しています。... さらに読む など、何らかの原因を示唆する他の特徴についても尋ねます。医師は患者の使用している薬、最近使用していた薬、および脱毛の家族歴を確認します。
身体診察では、頭皮に着目し、脱毛の分布、皮膚の異常の有無と特徴、瘢痕化の有無について確認します。頭皮の中心部の幅を何点かで測定し(かみの毛のぬけ方 かみの毛のぬけ方 )、顕微鏡で毛髪を観察して毛幹に異常がないか調べます。
他の部位(まゆ毛、まつ毛、腕、脚など)の脱毛について評価を行います。特定の脱毛症に関連してみられる発疹がないか、また女性に声が低くなる、男性型多毛症が生じている、陰核が肥大している、にきびがあるなどの男性化の徴候がないかを調べます。甲状腺についても調べます。
検査
医師の診察で原因が特定されれば、通常は検査は不要です。例えば、男性型脱毛症と女性型脱毛症については、一般に検査は不要です。しかし、脱毛の家族歴のない若年男性に脱毛が生じた場合は、 タンパク質同化ステロイドなどの薬を使用 タンパク質同化ステロイド タンパク質同化ステロイドは、合成(人工)型のテストステロンで、筋肉量を増やすために使用されます。 タンパク質同化ステロイドは、筋肉の成長を促し、筋力と活力を増強するホルモンです。 タンパク質同化ステロイドには多くの副作用もあり、精神的なもの(気分変動、攻撃的行動、易刺激性)や、身体的なもの(にきび、女性の男性化、男性の乳房腫大)が含まれます。 これらの物質は6カ月後まで尿中で検出できます。... さらに読む していないか尋ねることがあります。
女性にかなりの脱毛がみられ、男性的な特徴が生じている場合は、処方薬や違法薬物を使用していないか尋ね、ホルモンのテストステロンやデヒドロエピアンドロステロン硫酸エステル(DHEAS)の濃度を測定するために血液検査を行うことがあります。身体診察で他のホルモンの異常やその他の重篤な病気の徴候が見つかった場合、その病気を特定するための血液検査が必要になります(例えば、多嚢胞性卵巣症候群[PCOS]と診断するには、黄体形成ホルモン[LH]と卵胞刺激ホルモン[FSH]を測定する検査を行います)。
引っぱり検査は脱毛の評価に役立ちます。この検査では、少なくとも頭皮の3カ所で1房の毛髪(約40本)を穏やかに引っぱります。引っぱる毎に抜けた毛髪の本数を数え、顕微鏡で調べてその成長期を判定します。1回引っぱって休止期の毛が4~6本以上抜ける場合は、検査陽性であり、その人は休止期脱毛を生じている可能性が非常に高くなります。
引き抜き検査では、約50本の毛髪を別々に一気に(「根こそぎ」)引き抜きます。引き抜いた毛髪の毛根と毛幹を顕微鏡で調べ、毛幹を評価してその成長期を判定します。その結果を参考にして、主に毛幹の異常である休止期脱毛が生じているのか、あるいは別の問題が起きているのかを判断します。
引っぱり検査で陰性と判定され、脱毛が実際に過剰であるかどうかが分からない場合は、毎日の脱毛本数の計数により脱毛数を数量化することができます。14日間にわたって毎日、朝起きて最初にくしで髪をとかした際やシャンプーをした際に抜けた毛髪を透明なビニール袋に集めます。そして、それぞれの袋の毛髪の本数を記録します。1日に100本を超える脱毛があれば異常ですが、シャンプーをした後は例外で、最大250本が抜けることもあります。毛髪を病院に持ってきてもらい、顕微鏡で調べることもあります。
医師による身体診察と他の検査を行っても診断が明らかにならない場合は、頭皮の 生検 生検 皮膚の病気には、医師が皮膚を観察しただけで特定できるものが数多くあります。全身の皮膚の診察には、頭皮、爪、粘膜の診察も含まれます。ときに、皮膚の一部を詳細に観察するために、手持ち式の拡大鏡やダーモスコープ(拡大レンズと内蔵式のライトを備えた器具)を使用することもあります。 診断につながる特徴としては、皮膚に現れている異常部分の大きさ、形、色、部位に加え、その他の症状や徴候の有無があります。皮膚の異常の広がりを調べるため、しばしば衣服をす... さらに読む を行います。生検は、毛包が正常かどうかの判定に役立ち、瘢痕化を生じる脱毛症(毛包の破壊による)と瘢痕化を生じない脱毛症を区別するのにも有用です。毛包に異常があれば、生検で原因の候補が明らかになることがあります。
脱毛症の治療
具体的な原因に対する治療
ときに脱毛に対する対処法
可能であれば、脱毛の具体的な原因を治療します。
脱毛の原因になっている薬は変更するか、使用を中止します。
内分泌疾患は、原因に応じて薬剤または手術による治療が可能です。
鉄や亜鉛などのミネラルが不足している場合は、それらのサプリメントを使用することができます(鉄欠乏症 鉄欠乏症 鉄欠乏症は、 貧血、赤血球の数が少ない状態です。 鉄欠乏症は通常、成人では失血(月経による出血を含む)によって起こりますが、小児と妊婦では食事に含まれる鉄分の不足から起こることもあります。 貧血が生じ、肌が青白くなって筋力低下や疲労を感じるようになります。 診断は、症状と血液検査の結果に基づいて下されます。 医師は出血源を探し、見つけたら治療します。 さらに読む と 亜鉛欠乏症 亜鉛欠乏症 亜鉛欠乏症には、様々な病気、アルコール使用障害、利尿薬の使用など、多くの原因があります。 患者には食欲の減退と脱毛がみられ、だるさを感じたり味覚が失われたりすることがあります。 医師は血液や尿中の亜鉛濃度を測定しますが、これらの検査では亜鉛の状態を正確に判定できない可能性があります。 亜鉛欠乏症は、亜鉛のサプリメントの経口投与で治癒します。 亜鉛は体内に広く分布していて、骨、歯、毛髪、皮膚、肝臓、筋肉、白血球、精巣に存在します。RNA(... さらに読む を参照)。
ビタミンAの大量摂取により脱毛症が起きた人では、ビタミンAの摂取量を減らすことができます。
円形脱毛症 治療 円形脱毛症は、皮膚の病気や全身の病気(全身性疾患)などの明らかな原因もなく、毛髪が斑状に突然抜ける病気です。 ( 毛髪の成長の概要と 脱毛[脱毛症]も参照のこと。) 円形脱毛症はよくみられます。性別や年齢を問わず起こりますが、小児や若い成人に特に多くみられます。 円形脱毛症の原因は 自己免疫反応、つまり免疫による防御機構が誤って毛包を攻撃するためと考えられています。円形脱毛症は他の病気が原因で起こるものではありませんが、患者の中には甲状... さらに読む は通常、コルチコステロイドの皮膚への注射、頭皮への塗布(外用)、または服用(経口薬)により治療できます。その他の外用薬や経口薬を使用することもあります。
皮膚エリテマトーデス、毛孔性扁平苔癬、前頭部線維性脱毛症(frontal fibrosing alopecia)は通常、コルチコステロイドの皮膚への注射または外用か、その他の外用薬や経口薬で治療することができます。
牽引性脱毛症は、頭皮に対する物理的牽引力やストレスを取り除くことによって治療します。
頭部白癬 しらくも(頭部白癬) 頭部白癬(しらくも)は、頭皮の皮膚糸状菌(真菌)感染症です。 頭部白癬の症状としては、頭皮に乾燥したうろこ状の斑、斑状の脱毛、またはその両方が生じます。 診断は、頭皮の診察と頭皮から採取したサンプルの検査の結果に基づいて下されます。 治療は、すべての患者で抗真菌薬の内服を行い、小児に対しては抗真菌薬クリームを使用します。 ( 皮膚真菌感染症の概要も参照のこと。) さらに読む は抗真菌薬の内服によって治療します。
抜毛症 抜毛症(抜毛癖) 抜毛症では、繰り返し毛髪を引き抜き、結果として脱毛が生じます。 抜毛症の人は、毛を抜く直前に緊張感や不安を抱いていて、毛を抜くことで、そうした感情が和らぐことがあります。 一般的に症状の重症度は変動しますが、症状が生涯続く場合もあります。 毛髪が少なくなるほど毛を抜いていて、毛を抜く行為をやめようとしてもやめられず、そのために強い苦痛を感じているか、日常生活に支障をきたしている場合に、この病気の診断が下されます。... さらに読む の治療は困難ですが、行動の修正、クロミプラミン、または選択的セロトニン再取り込み阻害薬(フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム、シタロプラム(citalopram)など)が有用になる場合があります。
最近の体重減少、手術、高熱を伴う重い病気、出産などの身体的ストレスによる脱毛(休止期脱毛)は、自然に治ることが多いため、一般的に治療は行いません。一部の患者では、頭皮にミノキシジルを塗る治療が助けになることがあります。
毛髪が再び自然に成長しない場合は、以下のような脱毛に対する対処法を試すことができます。
さらなる脱毛を予防したり、新たな毛髪を成長させる薬剤
毛髪の移植(植毛)
かつら
薬剤
男性型脱毛症と女性型脱毛症は、ときに薬剤で効果的に治療できることがあります。
ミノキシジルは、さらなる脱毛を予防し、毛髪の成長を促します。男性型脱毛症と女性型脱毛症にはミノキシジルの外用薬を1日2回、直接頭皮に塗るのが効果的です。毛髪の再生には8~12カ月かかることがあり、目に見える効果は約30~40%の人にしか生じません。最もよくみられる副作用は、かゆみや発疹などの皮膚の刺激症状です。顔面の毛髪も増加することがあります。ミノキシジルは経口で使用することもできます。
フィナステリドは、男性ホルモンが毛包に及ぼす影響を阻害することで作用する薬剤で、経口で毎日服用します。フィナステリドはときに閉経後の女性に使用されます。動物に先天異常を引き起こすため、妊娠中の使用が安全かどうかが不明であることから、妊娠中は決して使用してはいけません。男性では、脱毛を止め、毛髪の成長を刺激する効果は治療開始から6~8カ月以内に明らかになるのが通常で、その効果は時間の経過とともに高まっていきますが、効果の大きさは人によって様々です。フィナステリドは、性欲減退、乳房の増大、 勃起障害 勃起障害(ED) 勃起障害(ED)とは、性交を行うのに十分な勃起を達成または持続できないことです。 ( 男性の性機能障害の概要も参照のこと。) どんな男性でもときに勃起に至らない問題を抱えることがあり、そのような問題の発生は正常なことと考えられています。勃起障害(ED)は男性が次のような場合に起こります。 一切勃起できない 繰り返し短時間は勃起するが、性交に十分な時間ではない さらに読む につながる可能性があるほか、まれにうつ病の症状を引き起こすこともあります。また、前立腺特異抗原(PSA)の血中濃度を低下させることもあります。男性の場合は、治療を開始する前に、フィナステリドが 前立腺がんのスクリーニング スクリーニング 前立腺がんは、男性だけにある臓器である前立腺の小さな領域で発生します。 前立腺がんのリスクは年齢とともに高くなります。 排尿困難、頻尿や急な尿意、血尿などの症状は通常、がんが進行するまで現れません。 この種のがんは転移する可能性があり、最も転移しやすい部位は骨とリンパ節です。 症状のない男性で前立腺がんの可能性をチェックするために、医師が手袋をはめた指で直腸内から前立腺を診察する直腸指診や血液検査(PSA)を行うことがあります。 さらに読む にどのような影響を及ぼすかについて、医師の説明を受ける必要があります。
ミノキシジルやフィナステリドの最も重要な効果は、さらなる脱毛を予防することにあります。効き目があるのは薬剤を使用している間だけです。
経口避妊薬 経口避妊薬 避妊のためのホルモン剤は、以下の方法で投与することができます。 内服(経口避妊薬) 腟への挿入(腟リング) 皮膚への貼り付け(パッチ剤) 皮下インプラント さらに読む やスピロノラクトンなどのホルモン調節薬が一部の女性で有用になる場合があります。
毛髪の移植(植毛)
植毛はより永続的な治療法です。この手法では、頭皮の一部から毛包を切除して、脱毛部位に移植します。一度に1~2本の毛髪しか移植できません。
別の外科的な選択肢として、頭皮の脱毛部位の一部を切除し、毛髪のある部位を広げてより広い面積を覆うようにする方法があります。
かつら
かつらは一時的な脱毛(化学療法によるものなど)に対して、しばしば最良の治療法となります。化学療法を受ける人は、必要になったときに適切なかつらを着けられるように、治療を開始する前から、かつらを作る会社と相談して準備をしておくとよいでしょう。毛髪が再生した際には、元の毛髪とは色や質感が変わっている場合があります。
その他の選択肢
レーザー光線療法は、男性型と女性型の脱毛症(アンドロゲン性脱毛症)に対する代替または追加の治療法で、発毛が促進されることが示されています。一般向けに販売されている機器もありますが、医療機関で医師がレーザー光線療法を行うことも可能です。
毛包の成長を促進する可能性がある新しい治療法では、患者自身の 血漿 血漿 血液の主な成分 血漿(けっしょう) 赤血球 白血球 血小板 さらに読む (血液の液体成分)と 血小板 血小板 血液の主な成分 血漿(けっしょう) 赤血球 白血球 血小板 さらに読む (血栓を助ける小さな血球)を使用します。血小板には、毛髪の成長の引き金となる物質が含まれていると考えられています。この多血小板血漿療法やPRP療法と呼ばれる治療では、患者から血液を採取して、多血小板血漿を除去する処理を行います。次に多血小板血漿を脱毛部に注射することで、新しい毛髪の成長が促進される可能性があります。
増毛パウダー、脱毛コンシーラー(既存の毛髪に結合する繊維を含む製品)や頭皮のマイクロピグメントと呼ばれる入れ墨の一種を使用して、毛髪が薄くなった部分を隠す人もいます。
要点
男性型脱毛症と女性型脱毛症は、最も多くみられる種類の脱毛です。
医師は男性化の徴候のある女性に基礎疾患がないか調べます。
脱毛の原因の診断にあたり、顕微鏡による毛の検査や頭皮の生検が必要になることもあります。
可能であれば脱毛の具体的な原因を治療しますが、それが可能でない場合の男性型脱毛症と女性型脱毛症の治療法としては、薬剤、植毛、レーザー光線療法、多血小板血漿の注射などがあります。
さらなる情報
以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国円形脱毛症財団(National Alopecia Areata Foundation):支援団体、地域社会のリソース、治療選択肢へのリンクを含めた脱毛症の様々な側面に関する情報
身体集中反復行動症のためのTLC財団:抜毛症(The TLC Foundation for Body-Focused Repetitive Behaviors: Trichotillomania):支援団体、治療選択肢、教育、および回復に関する抜毛症の人向けの情報