脳が損傷を受けると、様々な機能障害が起こります。機能障害の範囲は、完全な意識消失(昏睡 昏迷と昏睡 昏迷とは、反応がなく、激しい物理的な刺激によってのみ覚醒させることができる状態です。昏睡とは、反応がなく、覚醒させることができず、刺激を受けても眼は閉じたままになっている状態です。 昏迷や昏睡の原因は通常、脳の左右両側の広い領域または意識の維持に特化した領域に影響を及ぼす病気、薬、またはけがです。... さらに読む のときなど)から、見当識障害と注意力の欠如(せん妄 せん妄 せん妄は、突然発生して変動する精神機能の障害で、通常は回復可能です。注意力および思考力の低下、見当識障害、覚醒(意識)レベルの変動を特徴とします。 多くの病気、薬剤、毒物などが、せん妄の原因になりえます。 診断は症状と身体診察の結果に基づいて下され、原因を特定するために血液検査、尿検査、画像検査を行います。... さらに読む のときなど)、意識的な活動を助ける様々な機能の低下まで、多岐にわたります。
脳の機能障害の種類と重症度は以下の要因に応じて変わります。
脳の損傷範囲
脳の損傷部位
原因になっている病気の進行速度
脳の機能障害は以下のように分類できます。
局所性(焦点性):特定の領域に限局しているもの
びまん性(全般性):広範囲に及ぶもの
脳の機能障害の原因
局所性の脳機能障害は、脳の特定領域だけに発生する以下のような病気が原因で起こります。
びまん性の脳機能障害は、脳の広範囲に及ぶ、以下のような病気が原因で起こります。
代謝異常をきたす病気、例えば、 低血糖 低血糖 低血糖とは、血液中のブドウ糖の値(血糖値)が異常に低くなっている状態です。 低血糖は、糖尿病を管理するために服用する薬によるものが最も多くみられます。低血糖のまれな原因としては、他の種類の薬、深刻な病態や臓器不全、炭水化物に対する反応(感受性の高い人において)、膵臓のインスリン産生腫瘍、一部の肥満外科手術(減量のための手術)などがあります... さらに読む や血中酸素レベルの低下(低酸素症―通常は肺や心臓の病気のほか、しばしば呼吸停止または 心停止 心停止と心肺蘇生 心停止とは、心臓から脳やその他の臓器および組織に血液と酸素が送り出されなくなった状態です。いったん心停止が起きても、特に直ちに治療が開始された場合は、ときに蘇生できる可能性があります。しかし、酸素を多く含む血液が脳に供給されない時間が長くなるほど、蘇生の可能性は下がっていき、蘇生できた場合も脳に障害が残る可能性が高くなります。... さらに読む による)など
感染症(髄膜炎 髄膜炎に関する序 髄膜炎とは、髄膜(脳と脊髄を覆う組織層)とくも膜下腔(髄膜と髄膜の間の空間)の炎症です。 髄膜炎は細菌、ウイルス、または真菌、感染症以外の病気、薬剤などによって引き起こされます。 髄膜炎の症状には、発熱、頭痛、項部硬直(あごを胸につけるのが難しくなる症状)などがありますが、乳児では項部硬直がみられない場合もあり、非常に高齢の人や免疫系を抑... さらに読む や 脳炎 脳炎 脳炎とは、ウイルスが脳に直接感染して起こることもあれば、ウイルスやワクチン、その他の物質が炎症を誘発して起こることもあります。炎症が脊髄に波及することもあり、その場合は脳脊髄炎と呼ばれます。 発熱、頭痛、けいれん発作が起こることがあり、眠気、しびれ、錯乱をきたすこともあります。... さらに読む など)
極端な 高血圧 高血圧 高血圧とは、動脈内の圧力が恒常的に高くなっている状態のことです。 高血圧の原因は不明のことも多いですが、腎臓の基礎疾患や内分泌疾患によって起こる場合もあります。 肥満、体を動かさない生活習慣、ストレス、喫煙、過度の飲酒、食事での過剰な塩分摂取などはすべて、遺伝的に高血圧になりやすい人の高血圧の発症に何らかの形で関与しています。... さらに読む または 低血圧 低血圧 低血圧とは、めまいや失神などの症状が出現するほど、血圧が低下した状態のことです。血圧が極度に低下すると、臓器に損傷が起きる可能性があり、そのような病態を ショックと呼んでいます。 体内の血圧を維持する仕組みは、様々な薬や病気によって影響を受けます。 血圧が下がりすぎた場合、脳の機能不全や失神を起こすことがあります。... さらに読む
脳のいくつかの領域や髄膜(脳と脊髄を覆っている組織)に及んでいるがん
びまん性の脳機能障害は、脳の特定の領域だけに発生する病気によって脳の広範囲に腫れや圧迫が生じる場合にも起こることがあります。そのような病気としては以下のものがあります。
脳膿瘍
大きな脳腫瘍
重度の頭部外傷または鈍的な頭部外傷
新型コロナウイルス感染症(COVID-19 COVID-19 新型コロナウイルス感染症、すなわちCOVID-19(コビット・ナインティーン)は、SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)と命名されたコロナウイルスの一種によって引き起こされ、重症化する可能性がある急性呼吸器疾患です。 COVID-19の症状はかなり多彩です。 COVID-19の診断には2種類の検査法が用いられます。... さらに読む )は、主に呼吸器が侵される疾患ですが、脳を含む体内の多くの臓器にも影響を及ぼす可能性があります。 COVID-19を引き起こす COVID-19の伝播 新型コロナウイルス感染症、すなわちCOVID-19(コビット・ナインティーン)は、SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)と命名されたコロナウイルスの一種によって引き起こされ、重症化する可能性がある急性呼吸器疾患です。 COVID-19の症状はかなり多彩です。 COVID-19の診断には2種類の検査法が用いられます。... さらに読む ウイルスは、脳に広範な機能障害を引き起こして、神経系の問題(精神症状)や精神衛生上の問題(精神症状)を発生させる可能性があります。それらの症状の一部は、急性期から回復した後も続くことがあります。
オピオイド(麻薬)、一部の鎮静薬(ベンゾジアゼピン系やバルビツール酸系の薬剤など)、抗うつ薬といった特定の薬剤も、使用する人(高齢者など)が作用に敏感すぎたり、血液中の濃度が高くなりすぎたりすると、びまん性の脳機能障害の原因になります。
脳の特定の領域が損傷すると…
脳の各領域は、それぞれ特定の機能を制御しています。そのため、損傷を受けた脳の部位によって、失われる機能が異なります。 |
脳の機能障害の症状
脳機能障害の種類と重症度は、脳の損傷部位のほか、損傷が脳全体に及んでいるか(びまん性)、脳の一部に限定されているか(局所性)によっても左右されます。大脳皮質(大脳の外層で、脳の中で最大の体積を占める部分)に損傷が起きると、多くの場合、機能障害が損傷の範囲に比例します。つまり、損傷の範囲が広いほど、機能障害がより重度になる可能性が高くなります。しかし、脳の中には、損傷の範囲が小さくても重度の機能障害をきたす領域もあります。脳幹(体の極めて重要な機能と意識レベルを調整しています)が損傷を受けた場合は、比較的小さな損傷であっても、昏睡につながり、死に至ることさえあります。
速く進行する病気では、ゆっくり進行する病気と比べて、脳の機能障害の症状がより顕著に現れる傾向があります。例えば、重度の脳卒中では、ゆっくり大きくなる腫瘍と比べて、顕著な症状が引き起こされる可能性が高まります。損なわれた機能を補う脳の働きは、急激な変化よりもゆるやかな変化に容易に対応できます。
また、突然発生するびまん性の脳損傷では、意識障害が起こる傾向があり、眠気を催したり、覚醒が困難(昏迷)または不可能(昏睡)になったりします。しかし、びまん性の脳損傷は進行が遅いことがあり、意識に影響を及ぼすことも比較的少ないです。そのため、通常は意識が残り、患者は覚醒しています。局所性の損傷では、特定の機能だけに影響が生じる傾向があります。
脳の機能障害の予後(経過の見通し)
損傷を受けた後の脳の代償作用と回復には、次に挙げる2つの脳の特性が役立っています。
余剰性:複数の領域が同じ機能を果たします。一部重複した機能をもつ他の領域が、失われた機能を代償できることがあります。
可塑(かそ)性:特定の領域の神経細胞は、新しい機能を果たせるように変化することができます。
したがって、損傷を受けていない領域が損傷を受けた領域の果たしていた機能を引き継ぐことで、回復につながることがあります。しかし、ある領域から別の領域へ機能を移動させる脳の能力は、加齢に伴って衰えていきます。視覚などのいくつかの機能は、脳の他の領域が代行することができません。このような機能を制御する領域が直接損傷を受けると、その影響は永続的に残ることがあります。