パーキンソン病

執筆者:Hector A. Gonzalez-Usigli, MD, HE UMAE Centro Médico Nacional de Occidente
レビュー/改訂 2022年 2月
プロフェッショナル版を見る
やさしくわかる病気事典

パーキンソン病は、脳の特定の領域がゆっくりと進行性に変性していく病気です。特徴として、筋肉が安静な状態にあるときに起こるふるえ(安静時振戦)、筋肉の緊張度の高まり(こわばり、筋強剛)、随意運動が遅くなる、バランス維持の困難(姿勢不安定)などがみられます。多くの患者では、思考が障害され、認知症が発生します。

  • パーキンソン病は、動きを協調させている脳領域の変性によって起こります。

  • たいてい、最も顕著な症状は、筋肉が弛緩しているときに起こる振戦です。

  • 筋肉がこわばり、動作が遅くなって協調運動が難しくなり、バランスを崩しやすくなります。

  • 診断は症状に基づいて下されます。

  • 一般的な対策(日課を簡素化するなど)、薬剤(レボドパとカルビドパの併用など)のほか、ときに手術も役立つことがありますが、病気は進行性であり、最終的には重度の身体障害をきたし、体を動かせなくなります。

運動障害の概要も参照のこと。)

パーキンソン病は、中枢神経系の変性疾患としては、アルツハイマー病の次に多い病気です。以下の割合でみられるようになります。

  • 40歳以上の人の約250人に1人

  • 65歳以上の人の約100人に1人

  • 80歳以上の人の約10人に1人

パーキンソン病は一般的に50~79歳の間に発症します。まれに、小児や青年が発症することもあります。

パーキンソニズムとは、パーキンソン病と同じ症状が、他の様々な病気(多系統萎縮症進行性核上性麻痺脳卒中頭部外傷、特定の薬剤など)によって引き起こされることをいいます。

脳内で起きる変化

パーキンソン病では、大脳基底核の黒質と呼ばれる部位の神経細胞が変性します。

大脳基底核は、脳の奥深くにある神経細胞の集まりです。これには以下の機能があります。

  • 筋肉の意図的な(随意)運動を開始し、その動きを滑らかにする

  • 不随意運動を抑制する

  • 姿勢の変化を調整する

脳から筋肉を動かすための信号(腕を上げるなど)が出ると、その信号は大脳基底核を通ります。他の神経細胞と同様に、大脳基底核の神経細胞も化学伝達物質(神経伝達物質)を放出して、隣の神経細胞を刺激することにより信号を伝達します。大脳基底核の主要な神経伝達物質はドパミンです。ドパミンの主な作用は、筋肉に送られる信号を増幅することです。

大脳基底核の神経細胞が変性すると、ドパミンの生産量が減るとともに、大脳基底核の神経細胞同士をつなぐ接続の数が減少します。すると、筋肉の動きを制御するという大脳基底核の正常な働きが損なわれて、振戦が起こるほか、動作が遅く(動作緩慢)、小さく(運動減少)なり、姿勢や歩行に異常が現れ、協調運動がいくぶん障害されます。

大脳基底核の位置

大脳基底核は、脳の奥深くにある神経細胞の集まりです。以下のものが含まれます。

  • 尾状核(後方に向かって先細る形をしたC字型の構造物)

  • 被殻

  • 淡蒼球(被殻の隣にある)

  • 視床下核

  • 黒質

大脳基底核には、筋肉の運動を開始し、その動きを滑らかにし、不随意運動を抑制し、姿勢の変化を調整する機能があります。

パーキンソン病の原因

パーキンソン病では、神経細胞の中にシヌクレイン(神経細胞同士の情報伝達を補助している脳内のタンパク質)が蓄積して、レビー小体と呼ばれるかたまりを形成します。レビー小体は、異常な形に折りたたまれたシヌクレインでできています。シヌクレインは、脳の複数箇所(特に大脳の深部にある黒質)に蓄積して、脳の機能を妨げます。レビー小体は脳と神経系の他の部位にも蓄積するため、他の病気にも関与している可能性があります。レビー小体型認知症では、脳の外側の層(大脳皮質)全体にレビー小体が形成されます。レビー小体はアルツハイマー病にも関わっている可能性があり、これによってパーキンソン病患者の約3分の1がアルツハイマー病の症状を有する理由や、アルツハイマー病患者の一部でパーキンソン症状がみられる理由を説明できるかもしれません。

パーキンソン病患者の約10%にパーキンソン病の近親者がいます。また、パーキンソン病を引き起こすいくつかの遺伝子変異が特定されています。

パーキンソン病がより大きな別の病気の一部であるという科学的な証拠が増えています。この病気では、シヌクレインは脳だけでなく、心臓、食道、腸などの神経細胞にも蓄積します。その結果、この病気は、シヌクレインが蓄積する場所に応じて、立ちくらみ、便秘、嚥下困難などの他の症状を引き起こします。

知っていますか?

  • 多くの薬剤が、パーキンソン病に似た症状を引き起こします。

  • 加齢が原因でパーキンソン病と同じ症状が起こることがあるため、高齢者ではパーキンソン病の診断が困難な場合があります。

パーキンソン病の症状

通常、パーキンソン病はかすかな症状で始まり、徐々に進行します。

初発症状は以下のものです。

  • 約3分の2の人で振戦

  • 他のほとんどの人で運動症状または嗅覚の低下

振戦(ふるえ)には一般的に以下の特徴がみられます。

  • 粗く律動的

  • 通常は安静な状態にした片方の手で起こる(安静時振戦)

  • しばしば、小さな物体を転がすように手を動かす(丸薬丸め運動と呼ばれる)

  • 手を意図的に動かしているときにはあまり起こらず、睡眠中はまったく起こらない

  • 精神的ストレスや疲労によって悪化することがある

  • 最終的には、もう一方の手、腕、脚にも起こるようになる

  • あご、舌、額、まぶたのほか、影響は比較的小さいものの声にも起こる

なかには、振戦がまったく起こらない人もいます。ときに、病状が進行するにつれて、振戦がはっきりしなくなり、筋肉が固くなります。

典型的なパーキンソン病では次のような症状もみられます:

  • こわばり(筋強剛):筋肉がこわばり、動くことが困難になります。医師が患者の腕を曲げたり伸ばしたりしようとすると、動きに抵抗があり、歯車のように動き始めたと思えば止まり、止まったと思えば動き始めます(歯車様強剛と呼ばれます)。

  • 動作の緩慢化:動きが遅く小さくなり、動作の開始が困難になります。そのため、患者はあまり動かなくなる傾向があります。その結果、関節が硬くなり、筋力が低下するため、動くことがますます難しくなります。

  • バランスと姿勢の保持の困難:姿勢が前かがみになります。また、平衡感覚を保てなくなり、前方や後方に倒れるようになります。動作が緩慢になるため、転びそうになってもさっと手をつくことができません。このような問題はこの病気の後期に起こる傾向があります。

歩行が困難になり、特に最初の一歩が踏み出せなくなります。いったん歩き出すと、小刻みに足を引きずるような歩き方になり、腕は腰のところで曲げたまま、ほとんどまたはまったく振りません。歩行中に止まったり向きを変えたりすることが難しくなる人もいます。病気が進行すると、足が地面にくっついたように感じて突然歩くのをやめてしまうこともあります(すくみ足と呼ばれます)。あるいは、意図しないのに次第に速足になり、転倒を避けようとして、つまずくような走り方になることもあります。この症状は加速歩行と呼ばれます。

こわばりと可動性の低下により、筋肉痛と疲労が生じます。筋肉が硬くなっているため、多くの動きに支障をきたし、寝返りをうつこと、車の乗り降り、深く腰を掛けた状態から立ち上がることなどが困難になります。日常生活の行為(着衣、髪をとかす、食事、歯磨き)に時間がかかるようになります。

また、手の小さな筋肉の制御が難しくなるため、シャツのボタンをかける、靴ひもを結ぶなどの動作も次第に困難になります。パーキンソン病の人の多くは、文字を書く手がふるえ、字が小さくなりますが(小字症)、この症状は、字の一画一画を書き始めたり書き続けたりすることが難しいために起こります。こういった症状を筋力の低下と勘違いする人もいます。しかし通常、筋力や感覚は正常に保たれます。

表情をコントロールする顔面筋が正常に動かないため、顔の表情が乏しくなり(仮面様顔貌)、うつ病と間違われたり、逆にうつ病があるのに見過ごされたりすることがあります。(パーキンソン病の人ではうつ病が多くみられます。)最終的には、口を開けたままうつろなまなざしになり、まばたきの回数も減少します。顔面とのどの筋肉が硬くなると嚥下(ものを飲み込むこと)が困難になるため、よだれが出たり、ものをのどに詰まらせたりします。しばしば話し方が単調で小声になります。また、言葉を明瞭に発音できないため、吃音(きつおん)が生じることもあります。

パーキンソン病では、上記以外に以下のような症状もみられます。

  • 排尿回数が増えたり、夜間に症状が悪化して寝返りが困難になったりするために、不眠症などの睡眠障害がよくみられます。レム睡眠行動障害もよくみられます。正常であれば、レム睡眠中に体が動くことはないはずですが、この病気がある人は夢の内容に合わせて体を動かすため、レム睡眠中に腕や脚が突然乱暴に動くことがあり、ときに隣で寝ている人にけがをさせることもあります。また、睡眠不足のために、抑うつ、思考障害、日中の眠気が悪化します。

  • 排尿の問題が生じることがあります。排尿の開始と持続が難しくなります(排尿遅延)。切迫した尿意を感じることもあります(尿意切迫)。失禁もよくあります。

  • 食道が内容物を送る動きがゆっくりになるため、嚥下困難をきたすことがあります。その結果、口腔分泌物や食べたものや飲んだものを肺に吸い込む誤嚥(ごえん)が生じる可能性があります。誤嚥により肺炎が起こることがあります。

  • 腸が内容物を送る動きがゆっくりになるため、便秘をきたすことがあります。運動不足とパーキンソン病の主要な治療薬であるレボドパによって便秘が悪化することがあります。

  • 立ち上がったときに過度の急激な血圧降下起こることがあります(起立性低血圧)。

  • 頭皮や顔面、ときにその他の部位にしばしば鱗屑(りんせつ)が生じます(脂漏性皮膚炎)。

  • 嗅覚の喪失(嗅覚脱失)もよくみられますが、気づかれないことがあります。

  • パーキンソン病がある人の約3分の1で、通常は病気の後期に認知症が現れます。それ以外の人でも、多くの場合思考が障害されますが、気づかれないことがあります。

  • 抑うつがみられることもあり、ときに運動症状が発生する何年も前からみられることさえあります。抑うつは、パーキンソン病が重症化するにつれて悪化する傾向があります。抑うつは運動症状を悪化させることもあります。

  • 幻覚、妄想、およびパラノイアがみられることもあり、認知症を発症した場合には特によくみられます。そこにないものが見えたり聞こえたり(幻覚)するほか、矛盾を示す明確な証拠があるにもかかわらず特定の信念に固執したりします(妄想)。疑い深くなり、他者から危害を加えられると思い込むこともあります(パラノイア)。これらの症状は、現実との接触の喪失を表しているため、精神病症状とみなされます。精神病症状は、パーキンソン病の患者が施設入居に至る最も一般的な理由です。これらの症状は死亡のリスクを高めます。

精神病症状などの精神症状は、パーキンソン病に起因する場合もあれば、その治療に用いられる薬剤が原因である場合もあります。

パーキンソン病の治療薬(表「パーキンソン病の治療に用いられる薬剤」を参照)は、強迫行動や、衝動を押さえられないなどの問題を引き起こし、例えば、強迫的なギャンブルや収集癖をもたらすことがあります。

パーキンソン病の診断

  • 医師による評価

  • ときにCTまたはMRI検査

  • ときに、レボドパを使用して症状が改善するか確かめる

以下の特徴がみられる患者では、パーキンソン病の可能性が高くなります。

  • 動きが少なく、遅い

  • 特徴的な振戦

  • 筋肉のこわばり(筋強剛)

  • レボドパに反応してみられる明瞭かつ長期的(持続的)な改善

通常、初発症状はわずかであるため、早期の軽いパーキンソン病は、診断が困難な場合があります。年齢を重ねると、平衡感覚が低下する、動作が緩慢になる、筋肉がこわばる、姿勢が前かがみになるなど、パーキンソン病と同じ症状が現れることもあるため、特に高齢者では診断が困難です。ときに、本態性振戦がパーキンソン病と誤診されることもあります。

これらの症状が他の原因で起こっている可能性を否定するために、医師は、病歴、毒性物質への曝露、パーキンソニズムの原因になりうる薬剤の使用について質問します。

身体診察

身体診察に際し、診断の確定に役立てるため、特定の動きをするよう求められることがあります。例えば、指で自分の鼻に触れるように指示されることがありますが、パーキンソン病の患者がその動作を行うと、振戦が消失したり軽減したりします。また、この病気の患者は、素早く動作を入れ替えることがうまくできないため、両手を膝に置いて、両手を裏返し元に戻すといった動作を素早く繰り返すことができません。

検査

パーキンソン病の診断を直接確定できる検査や画像診断法はありません。しかし、構造的な異常が原因で症状が起こっていないかを調べるために、CT検査MRI検査が行われることがあります。SPECT検査PET検査では、パーキンソン病に典型的な脳の異常を検出できます。しかし、現在のところSPECTやPETの装置は研究施設でしか利用されておらず、またこれらの検査では、パーキンソン病と、同じ症状を引き起こすその他の病気(パーキンソニズム)とを鑑別することができません。

診断がはっきりしない場合は、パーキンソン病の治療薬であるレボドパが投与されることがあります。レボドパによって明確な改善がみられた場合は、パーキンソン病である可能性が高くなります。

パーキンソン病の治療

  • 症状を管理するための一般的な対策

  • 理学療法と作業療法

  • レボドパ/カルビドパやその他の薬剤

  • ときに手術(脳深部刺激療法を含む)

パーキンソン病の人が日常生活をより円滑に送るには、この病気に対する一般的な対策が役立ちます。

運動機能を改善して、数年以上にわたって日常生活の維持を可能にする薬剤は数多くあります。パーキンソン病に対する治療の支柱となっているのは以下の薬剤です。

  • レボドパ+カルビドパ

レボドパ以外の薬剤は、一般にレボドパより有効性が劣りますが、一部の人では有益なこともあり、特にレボドパの副作用に患者が耐えられない場合や効果が不十分な場合には役立つ可能性があります。しかし、この病気を根治できる薬剤はありません。

2種類以上の薬が必要になる場合もあります。高齢者ではしばしば用量が減らされます。パーキンソン病の症状を引き起こしたり悪化させたりする薬剤(特に抗精神病薬)は、使用を控えます。

パーキンソン病の治療に用いられる薬剤は、厄介な副作用を引き起こす可能性があります。異常な影響(衝動を抑えられない、錯乱など)がみられたら、主治医に報告するべきです。主治医の指示がない限り、薬の服用をやめてはいけません。

病気が進行しているものの、認知症や精神症状がなく、薬剤を使用しても効果がないか重い副作用が出る場合は、外科的処置である脳深部刺激療法が考慮されます。

一般的な対策

パーキンソン病の人の移動能力と自立性を保つ上では、以下のような多くの単純な対策が役立ちます。

  • できるだけ多くの日常活動を続ける。

  • 定期的な運動プログラムを守る。

  • 日常生活の行為を簡単に行えるように工夫する(例えば、服のボタンをマジックテープに替える、マジックテープ付きの靴を買う)。

  • ジッパータブ(ファスナーを引くための補助器具)やボタンエイド(ボタンをかけるための補助器具)を使用する。

理学療法士作業療法士から、これらの対策を日常生活に取り入れる方法や、筋緊張を改善して関節の可動域を維持するための体操、また、自立を維持するための歩行器などの補助器具について、助言を受けることができます。

パーキンソン病の人が安全に暮らせるように、自宅周りで行える簡単な工夫もあります。

  • つまずかないようにカーペットや絨毯を取り除く。

  • 転倒のリスクを減らすため、浴室や廊下などに手すりを取り付ける。

便秘には以下のような対策が役立ちます。

  • プルーンやフルーツジュースなど、繊維分を多く含む食事をとる。

  • 運動する。

  • 水分を十分に摂取する。

  • 便軟化剤(センナなど)、サプリメント(オオバコなど)、または刺激性下剤(経口薬のビサコジルなど)を使用して、規則的な排便を維持する。

嚥下困難があると食べものの摂取が制限されるため、栄養の豊富な食事をする必要があります。息を鼻から深く吸い込むようにすると、嗅覚が改善して食欲が増進することがあります。

レボドパ/カルビドパ

従来から、パーキンソン病の治療にはレボドパとカルビドパの併用が最初の選択肢とされてきました。これらはともに経口薬で、パーキンソン病に対する治療の中心となっています。

しかし、長期間使用し続けると、レボドパの副作用が現れ、効果も弱くなることがあります。そこで、最初は別の薬剤を使用し、遅れてレボドパを開始する治療法を推奨する専門家もいます。しかし、レボドパを長期間使用した後に副作用が発生し、効果が弱くなるのは、おそらくパーキンソン病の悪化によるものであり、いつ薬剤の使用を開始するかとは無関係であることが科学的に示されています。それでも、レボドパを数年間使用すると効果が弱くなる可能性は残るため、薬物治療を長期間続けることになるであろう60歳未満の人には、まず別の薬剤が処方されることがあります。ほかに使用される可能性のある薬剤には、アマンタジンやドパミン作動薬(ドパミンのように作用して、脳細胞のドパミン受容体を刺激する薬)などがあります。このような薬剤が使用されるのは、パーキンソン病患者において、ドパミンの生産が減少しているためです。

レボドパは、筋肉のこわばりを軽減し、運動能力を改善し、しばしば振戦を大幅に軽減します。パーキンソン病の人がレボドパを使用すると、状態が劇的に改善します。軽度のパーキンソン病患者の多くは活動水準がほぼ正常まで回復し、寝たきりだった人が再び歩けるようになることもあります。

レボドパは、パーキンソン病に似た症状(パーキンソニズム)を引き起こす別の病気(多系統萎縮症進行性核上性麻痺など)の患者にはほとんど効果がありません。

レボドパドパミン前駆体です。これはつまり、体内でドパミンに変換されるということです。この変換は脳の大脳基底核で起こりますが、そこでレボドパによって、パーキンソン病のために量が減少しているドパミンが補充されます。しかし、レボドパの一部は、脳に到達する前に腸管や血液中でドパミンに変換されます。腸管内や血液中のドパミン濃度が上昇すると、嘔吐、起立性低血圧、紅潮などの副作用のリスクが高くなります。レボドパがこのように大脳基底核に到達する前にドパミンに変換されるのを防ぐため、同時にカルビドパが投与されます。その結果、副作用が少なくなる上、脳で多くのドパミンが利用できるようになります。

ドンペリドンは、吐き気、嘔吐、起立性低血圧などのレボドパ(および他の抗パーキンソン病薬)の副作用の治療に使用できます。ドンペリドンカルビドパと同様、レボドパによる副作用のリスクが高い腸や心血管系(心臓と血管)で、ドパミンに変換されるレボドパの量を減らします。

患者が耐えられるレボドパの用量は副作用によって制限されることがあるため、医師は、病気を抑える作用と副作用とのバランスを考慮してその人に最適な用量を決定します。具体的な副作用としては以下のものがあります。

  • 吐き気

  • 嘔吐

  • ふらつき

  • ジスキネジアと呼ばれる不随意運動(口、顔面、四肢に現れる)

  • 悪夢

  • 幻覚とパラノイア(精神病症状)

  • 血圧の変化

  • 錯乱

  • 強迫的な行動、または衝動の制御困難(例えば、強迫的にギャンブルをしたり、派手に浪費したりしてしまう)

ときに、レボドパが幻覚、パラノイア、または錯乱を引き起こしているにもかかわらず、動きを維持するためにレボドパが必要になることがあります。このような場合、特定の抗精神病薬(クエチアピンやクロザピンなど)が、これらの副作用を軽減するために使用されます。

レボドパの服用を5年以上続けると、薬剤がよく効く期間とまったく効かない期間が頻繁に入れ替わる、オンオフ現象と呼ばれる異常が半数以上の人に現れます。例えば、数秒の間に、かなり良好に動ける状態から、重度の障害が起こってまったく動けない状態に変化することがあります。毎回の服用後に動ける時間が徐々に短くなり、次の予定服用時刻前に症状が現れるようになります(これをウェアリング-オフ現象と呼びます)。また、レボドパの服用に伴って、身をよじったり活動が過剰になったりなどの不随意運動が生じることもあります。以下のいずれかの対策により、しばらくの間ウェアリング-オフ現象を抑えることができます。

  • 1回の用量を減らして服用回数を増やす

  • レボドパの放出制御製剤(血液中にレボドパがよりゆっくりと放出される剤形)に切り替える

  • ドパミン作動薬またはアマンタジンを追加する

しかし、15~20年が経過すると、このウェアリング-オフ現象を抑えるのは困難になります。この時点で手術が検討されます。

レボドパ/カルビドパを含有するある製剤(欧州で入手可能)は、小腸に挿入された栄養チューブに接続したポンプから投与することができます。ポンプによってレボドパが持続的に送達されるため、薬物濃度がほぼ一定に保たれ、副作用が起きる可能性が低くなります。この製剤は、内服薬では緩和できない重度の症状があり、かつ脳の手術で治療できない人に対する治療法として研究されています。この製剤は、薬が効かない時間を大幅に短縮し、生活の質(QOL)を向上させるようです。

その他の薬剤

レボドパ以外の薬剤は、一般にレボドパより有効性が劣りますが、一部のパーキンソン病患者では有益なこともあり、特にレボドパの副作用に患者が耐えられない場合や効果が不十分な場合には役立つ可能性があります。

ドパミン作動薬は、ドパミンに似た作用をもつ薬で、パーキンソン病のどの段階でも有用です。具体的には以下のものがあります。

  • プラミペキソールとロピニロール(経口投与)

  • ロチゴチン(皮膚パッチで投与)

  • アポモルヒネ(皮下注射)

副作用により、ドパミン作動薬の内服が制限されることがあります。ドパミン作動薬を服用している人の1~2%では、この種の薬剤によって強迫的なギャンブル、過度の買い物、過食などの強迫行動が引き起こされることがあります。そのような場合は、用量を減らすか、中止して別の薬剤で代用します。

プラミペキソールロピニロールは経口投与します。60歳未満の早期のパーキンソン病患者では、レボドパの代わりに、またはレボドパと併用して最初にこれらの薬剤を使用できます。ただし、単独で使用した場合、効果が数年以上続くことはまれです。あるいは、進行したパーキンソン病の患者でこれらの薬剤とレボドパを併用することもできます。これらの薬剤は通常、1日3回服用します。日中の眠気は一般的な副作用です。

ロチゴチンの皮膚パッチは1日1回貼付します。24時間貼ったままにし、それから貼り替えます。皮膚が刺激されるリスクを減らすために、貼る場所を毎日変えます。ロチゴチンは、病気の初期に単独で使用されます。

アポモルヒネは、動作の開始が困難なときに、レボドパのウェアリング-オフ現象を打ち消すために使用される即効性の薬剤です。そのため、この薬はレスキュー薬と呼ばれます。この薬剤は、患者がその場で凍り付いたようになって、歩けなくなったときなどに使用されます。患者自身か別の人(家族など)が、必要に応じて1日に5回まで注射することができます。一部の国では、手術が選択肢とならない重度の症状がある人に対し、ポンプを介して投与できるアポモルヒネの製剤が利用できます。ポンプは、ベルトに留めたり、ポケットに入れたりできる小さな装置です。ポンプから伸びた細いチューブを皮下に挿入します。皮膚の下のチューブを介して装置からアポモルヒネが送り出されます。この装置は一定の間隔で、アポモルヒネを自動的に投与します。

ラサギリンセレギリンモノアミン酸化酵素阻害薬(MAO阻害薬)と呼ばれるタイプの薬剤です。これらの薬剤は、レボドパドパミンへの分解を遅延させて、体内でのドパミンの作用時間を延長させます。これらの薬剤は、レボドパの使用を遅らせるために単独で使用されることもありますが、多くの場合は、後期にレボドパの補助薬として使用されます。MAO阻害薬を特定の食べもの(一部のチーズなど)、飲みもの(赤ワインなど)、または薬剤と一緒に服用すると、理論的には高血圧クリーゼと呼ばれる重篤な副作用が発生する可能性があります。しかし、パーキンソン病の治療においては、使用される用量が少なく、使用されるMAO阻害薬の種類(MAO-B阻害薬)も副作用が起こりにくいものであるため(特にラサギリン)、この副作用が起こる可能性は低いです。

カテコールO-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害薬(エンタカポン、オピカポン、トルカポンなど)は、レボドパドパミンの分解を遅らせ、これらの薬剤の作用時間を延長するため、レボドパの補助薬として有用であると考えられます。これらの薬剤は、レボドパとの併用でのみ用いられます。トルカポンはまれに肝臓の損傷を引き起こすことがあるため、現在ではめったに使用されません。しかし、トルカポンはエンタカポンより作用が強いため、ウェアリング-オフ現象が激しい場合や長く続く場合は、有用な可能性があります。

一部の抗コリン薬は、振戦を軽くする効果があるため、パーキンソン病の初期に使用されるか、後期にレボドパを補助する目的で使用されることがあります。一般的に用いられる抗コリン薬としては、ベンツトロピンやトリヘキシフェニジルなどがあります。非常に若い人で最も困っている症状が振戦である場合は、抗コリン薬が特に有用です。抗コリン薬は、厄介な副作用(錯乱、眠気、口腔乾燥、かすみ目、めまい、便秘、排尿困難、尿失禁など)もあり、長期間服用すると精神機能が低下するリスクが高まるため、高齢者での使用は控えられます。振戦は、神経伝達物質であるアセチルコリンの過剰とドパミンの不足という不均衡に起因すると考えられていて、これらの薬剤を投与すると、アセチルコリンの作用が遮断されるため、振戦が抑制されると考えられます。

ときに、一部の抗ヒスタミン薬や三環系抗うつ薬など、抗コリン作用があるその他の薬剤も用いられることがあり、ときにレボドパの補助薬としても使用されます。しかし、これらの薬剤の効果は弱く、多くの厄介な抗コリン作用があるため、パーキンソン病の治療に使用されることはほとんどありません。それでも、抗コリン作用のある三環系抗うつ薬は、抑うつ症状のあるパーキンソン病の若い患者に有用な場合があります。

アマンタジンは、インフルエンザの治療薬として使用されることがある薬剤で、軽度のパーキンソン病に単独で使用されるか、またはレボドパの補助薬として使用されることがあります。アマンタジンは、多くの作用によって効果を発揮すると考えられています。例えば、神経細胞を刺激してドパミンを放出させると考えられています。この薬剤は、レボドパの副作用である不随意運動(ジスキネジア)を制御する目的で用いられることが特に多いです。アマンタジンは、単独で使用すると、多くの場合数カ月後には効果がなくなります。

脳深部刺激療法

レボドパの長期使用による不随意運動またはオンオフ現象が起こっている場合は、脳深部刺激療法が有益となることがあります。大脳基底核の一部に微小な電極を手術で埋め込みます。振戦を引き起こしている大脳基底核の特定の領域に電極から微弱な電気を送ります。刺激を与える部位を特定するために、MRIまたはCT検査を行うことがあります。脳深部刺激療法では、この部分を刺激することにより、不随意運動と振戦が大幅に減り、オンオフ現象のオフ部分の時間が短くなります。脳深部刺激療法は専門施設でのみ行われています。

その他の処置

集束超音波手術では、MRIを使って、パーキンソン病の影響を受けた脳の部位を特定します。次に、集束させた超音波を照射して標的部位を破壊します。この処置では、侵襲的な手術は行われません。

一部の国では、重度に障害のある脳の小部分を手術で切除するか、小さな電気プローブを使用してその部分を破壊します。

これらの処置により症状が軽減することがあります。

これらの処置で効果がなければ、脳の別の部位に脳深部刺激を行うことがあります。

幹細胞

脳への幹細胞移植は、パーキンソン病の将来的な治療になると考えられていましたが、効果がなく、厄介な副作用を伴うことが証明されています。

精神症状に対する治療

原因がパーキンソン病そのものであるか、薬剤であるか、他の何であるかにかかわらず、精神病症状やその他の精神症状に対する治療を行います。

認知症のあるパーキンソン病の高齢者における精神病症状の治療に、ときに特定の抗精神病薬(クエチアピン、クロザピン、またはピマバンセリン[pimavanserin])が使用されます。これらの薬剤は他の抗精神病薬と異なり、パーキンソン病の症状を悪化させません。これらの薬剤は、比較的若い人ではよく耐えられ、パーキンソン病認知症で起こる精神病症状、またはパーキンソン病の治療に使用される一部の薬剤が原因で起こる精神病症状のコントロールに役立ちます。クロザピンは最も効果的ですが、重篤な副作用(白血球数の減少など)があり、それらの副作用が起きていないか確認するために頻繁に血液検査を行う必要があるため、使用が制限されます。最近の科学的証拠によると、ピマバンセリン(pimavanserin)はパーキンソン病の症状を悪化させることなく、精神病症状を効果的に治療できる可能性があります。また、頻繁な血液検査は必要ありません。

抑うつの治療には抗うつ薬が使用されます。ときに、抗コリン作用のある抗うつ薬(アミトリプチリンなど)が使用されます。このような薬剤は振戦の緩和にも役立ちます。しかし、非常に効果が高く、副作用がより少ない抗うつ薬が、ほかにもたくさんあります。例えば、フルオキセチン、パロキセチン、シタロプラム、エスシタロプラムなどの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や、ベンラファキシン、ミルタザピン、セレギリン、ブプロピオンといったその他の抗うつ薬などです。

精神症状の治療は、運動症状を軽減し、生活の質(QOL)を改善し、ときには施設に入れる必要を遅らせるのに役立ちます。

介護者と終末期の問題

パーキンソン病は進行性の病気であるため、最終的には食事、入浴、着替え、トイレなど、日常生活に介護が必要になります。介護者はパーキンソン病が身体と精神に与える影響や、患者の身体機能をできるだけ保つ方法を学んでおくと役に立ちます。介護は疲労とストレスをもたらすため、支援団体の援助を受けることが有益です。

最終的にパーキンソン病の人のほとんどは重度の身体障害に陥り動けなくなります。介助されても食事ができなくなる可能性があります。約3分の1の患者には認知症が現れます。ものを飲み込むのが次第に困難になるため、誤嚥性肺炎(口や胃の中の液体を肺に吸い込むことによる肺の感染症)で死に至るリスクが高くなります。人によっては、介護施設への入居が最善の選択肢である場合もあります。

患者は意思決定能力が大きく損なわれる前に、終末期にどのような治療を望むかを記した事前指示書を作成しておくべきです。

さらなる情報

役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 米国パーキンソン病協会(APDA:American Parkinson Disease Association, Inc. ):このウェブサイトには、パーキンソン病に悩む人(介護者を含む)の支援と教育に関する情報が掲載されています。また、支援グループや運動クラスなどのリソースへのリンクも掲載されています。

  2. マイケル・J・フォックスパーキンソン病研究基金(The Michael J. Fox Foundation for Parkinson's Research):このウェブサイトには、政府の方針に則ってパーキンソン病のより優れた新治療の開発を加速させる取り組みに関する情報と、パーキンソン病患者とその家族の生活の質を高める方法に関する情報(支援団体やオンライン診療を含む)が掲載されています。

  3. パーキンソン財団(Parkinson's Foundation[PDF] ):このウェブサイトには、パーキンソン病とその症状の説明や、パーキンソン病とともに行きていくためのヒント、他のパーキンソン病患者とオンラインで交流する機会が提供されています。

quizzes_lightbulb_red
医学知識をチェックTake a Quiz!
ANDROID iOS
ANDROID iOS
ANDROID iOS